令和6年5月17日の強風
5/17は秋田県のみならず日本海側の県では強風による被害が多く出ました。横手市では
屋根が飛ばされる被害が1件出ましたが、その被害に遭ったのが弊社事務所の近隣のお
宅でした。築50年を超える住宅で2階の屋根材が全部吹き飛ばされました。幸い屋根
材は近くの電柱の根本部分に引っ掛かり、二次的被害は免れました。
翌日は晴天で私は吹き飛ばされた屋根部分を見て驚きました。なんと野地板がほとんど
無いのです。残された野地板の残骸を見ましたが、それはベニヤ板がペラペラに剥がれ
たモノでした。築50年以上前ですから構造用合板ではなく普通のラワン合板を張って、
屋根を葺いたものと思われます。
大地震が日本各地で頻発する昨今、建物の軽量化を図るために雪の降らない地域でも金
属製の屋根材が使われるようになりましたが、ひと昔前では金属製の屋根と言えば雪国
でしか使わない商品でした。瓦屋根と違い、軽くて値段も安い金属製屋根はどうしても
高級感が出にくく、関西地方では小屋に使う屋根材と揶揄されていました。昔は、「ト
タン屋根」と呼ばれていましたが、現在は「ガルバウム銅板製屋根」に変わり、耐久
性も高くなり、多少はデザイン性も良くなりましたが、金属製の屋根には変わりません。
話が少し脱線しました。さて今回の災害ですが、50年前に棟梁さんが選択ミスをして
いなければ、屋根は吹き飛ばされずに済んだかも知れません。どんな選択ミスをしたか
と言うと、それは野地板にベニヤ板を使用した事です。金属製の屋根の特徴として一番
に考慮すべきは屋根材が直接野地板に触れることなのです。実際は屋根材と野地板の間
にはアスファルトフェルトが敷いてあるので、直接と言う言い方は違うかも知れません
が、屋根材の熱が野地板に伝わる点においてはアスファルトフェルトの有無は関係なく、
ほぼダイレクトに熱は野地板に伝わります。横手盆地の夏は東京並みに暑く、気温が3
5℃にもなります。この時の屋根材の温度は計った事はありませんが、素手では触れな
いくらいの熱さになります。この熱さは当然野地板にも伝わります。そして冬は氷点下
5℃くらいまで下がります。ひどい時は-15℃まで下がる日もあります。つまり野地
板は住宅部材の中で最も過酷な状況下に晒されているのです。ここにベニヤ板を使った
らどうなるかを考えてみてください。
ベニヤ板は薄い板を何層かで貼り合わせた人工物です。貼り合わせる為に接着剤を使用
していますが、これが先程言った過酷な状況下でどれだけの耐久年数を持つかを考えな
ければなりません。私の経験値ですが、おそらく20年は持たないと思います。では、
なぜ屋根材は50年も飛ばされずに持ったのか?それは屋根材を留める吊り子に打った
釘がタルキにある程度深く刺さっていたからだと思います。しかし、野地板のベニヤ板
が腐食し、屋根材との間に空間が出来てしまい、そこに風が入り込む事で今回の災害が
起きたと私は推察します。
では野地板には何を選べば良かったのでしょう?
答えはズバリ「無垢の杉バラ板」です。無垢材はベニヤ板と違い、剥離することはあり
ません。リフォーム工事で多くの屋根を葺き直してきましたが、合板を使った野地板は
ほとんど剥離しています。つまり、金属製の屋根材を葺く場合、野地板には無垢材を使
うか、合板を使用した場合には熱が直接伝わらないようシージングボードなどを上に重
ね張りするようにしなければならないのです。